あやつり裁判 読書感想
今回は最近読んだ、といっても新しい本ではありません。1998年発行のあやつり裁判という本です。有名な鮎川哲也によるアンソロジーです。その読書感想をしたいと思います。
表紙
幻の探偵コレクションということで、うつろな視線の女性の上半身が描かれています。いかにも昭和のカストリ雑誌を連想させます。収録されている作品は11篇で、大正から昭和二十九年にかけてのミステリーです。アンソロジーですから、一篇一篇作風も全く違いますが、読み応えがあります。粒ぞろいといっていいでしょう。その中でも、とくに僕が気に入った作品をご紹介しましょう。
蜘蛛 米田三星
作者の米田三星は、大変寡作な作家です。生涯に短編が四つしかないそうです。しかし、どれもクオリティが高く、よくアンソロジーに選ばれます。有名なのは、生きている皮膚、告げ口心臓といったところでしょうか。この蜘蛛という作品も、良品です。ただ、タイトルの蜘蛛が、どの場面に出てくるのかと期待していたら、最後の方に唐突に出て、あれっ、という感じはいたしました。
鼻 吉野賛十
これは秀作。あらすじを言うとネタがばれますから言いませんが、盲人の感覚について克明に描かれていて、そのせいか作品に深みがあります。
月下の亡霊 西尾正
鎌倉か、その辺の海沿いの話です。とある家が売りに出されていて、その家を購入したいという者に、家の番人が亡霊が出るという話をするのです。この亡霊はバイオリンを奏でます。一種の復讐劇です。ただ、ミステリーとして読んだ場合、ちょっとがっかりするかもしれません。 しかし、亡霊の主が海で死ぬ間際に言った言葉は、秀逸です。
海底の墓場 埴輪史郎
これは力作。ある雑誌の入選作のようですが、それだけのことはあります。難癖をつけるとすれば、潜水艦ごときに、それほどまでして秘密にしなければならない機能が隠されているのかと、ちょっと疑問には思います。が、それを言ったらミステリーは成立しませんよね。
あやつり裁判 大阪圭吉
表題作は、さすがにすごい発想という他ありません。こんなことが実際に法廷で起きれば、被告人はたまったものじゃないです。作者の大阪圭吉は大変才能のある作家です。この作家については、また改めて書きたいと思います。特筆すべき作家ですから。
ふしぎ文学館 鮎川・芦辺篇
妖異百物語 第一夜14編から
人喰い蝦蟇 辰巳隆司
解説に、このアンソロジーの超目玉とありましたが、なるほど興味深い作品でした。内容は、ある学者が蛙を食用として流通させ易くするために蛙の体を大きくしようと研究するのですが、しかしこれはカモフラージュで本当の目的は違います。タイトルでお察しがつくとおり、蛙の巨大化は成功します。が、とんでもない結末となります。これも復讐劇です。なかなかよく作られたストーリーです。
僕はこれを読んで、すぐに新羽精之の傑作「進化論の問題」を思い出しましたが、内容は全然違います。
奇術師 土岐到
最後のオチが素晴らしいです。しかし、こんなマジックが実際にあれば、ドン引きしますね。
忘れるのが恐い 和田宜久
主人公は、直前のことを忘れる病気です。たしかにそういう病気が実際にあったように思います。で、メモをするのですが、そのメモも忘れてしまいます。ショートショートとしては、申し分のない出来です。説得力があります。
今回はこの辺で。