読書感想(ありふれた祈り・クルーガー)エドガー賞

 今回は、アメリカのミステリー小説(ありふれた祈り)についての読書感想です。批評ではありません。単なるぼくの感想です。

 まず、この本の基礎知識ですが、2014年、早川書房発行・宇佐川晶子翻訳で、作者はウイリアム・ケント・クルーガーというセントポール在住の作家です。

 2013年に発表したこの本によって、アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)を受賞しました。それだけでなくバリー賞、マカヴィティ賞、アンソニー賞と立て続けに獲得しました。

 つまり多くの批評家や作家が、これは傑作だと認めたわけです。ならば、ミステリーを書いているぼくが読まないわけにはいかないでしょう。で、読んでみた感想は、それだけのことはある、です。

 ただけっこう長い小説で、退屈な部分もありました。が、これはたいていの長編小説がそうなので仕方ありません。とくにぼくは根気がなくて、長編を最後まで読まないことも多いのですが、しかし、この本は最後まで読みました。読ませるものがございました。その読ませるものが何か。それをちょっと書いてみようと思います。

 

 あらすじは、説明するうえで書く必要があるのですが、ぼくのような文才のない人間には、かなり難しい内容です。で、簡単に記すとアメリカのミネソタ州の田舎町で、連続して人が死ぬのですが、殺人と断定できるのは三番目の事件だけです。誰が殺されたのかは言えません。これを言うと犯人は誰か、を答えるのと同じくらい読者の興味は半減するでしょう。

 しかしこの作品は、誰が犯人か、というような薄っぺらいものではありません、言い換えれば、それだけのものであれば、とてもこれだけの賞を獲得することはなかったでしょう。話自体は、わりと平凡なものだからです。

 

 登場人物の一人一人が、じつに鮮やかに描かれていました。構成も無理がありません。

 純文学と言っても通用するようなキメの細かい作品です。

 またミステリー要素も豊富で、終末の謎解きも納得のいくものでした。

 牧師の家族がメーンとなっていることで、さらに作品に深みを加えているようです。

 とくに感心したのは、節ごとの終わり方で、とてもお上手です。

 

 クルーガーという作家の小説を、ぼくは初めて読んだのですが、かなり力量のある作家だと思います。実際、デビュー作の『凍りつく心臓』という作品で、いきなり、アンソニー賞とバリー賞を獲得しています。

 

 因みにエドガー賞は、アメリカのエドガー・アラン・ポーという天才作家を記念して作られたもので、推理作家の垂涎の的となっています。

 日本には、江戸川乱歩賞というのがございますが、これは公募であって、エドガー賞のような賞はとくにありません。会員でなくてもいいという点で言えば直木賞でしょうか。

 

 今回は、以上となります。