32回転 名手 2選
タイトルを見て、なんじゃこれ、と思われた方もいらっしゃることでしょう。
実際、32回転と書いて、ああ、あのことか、と分かる人は、かなりのバレエ通と言えます。
32回転は、バレニーナの最高難度の技とされるグラン・フェッテ・アン・トゥールナンを32回連続で回ることです。バレニーナと限定しましたが、男性ダンサーがこの回転技をしているのを僕は見たことがないですから、おそらく女性だけのものでしょう。
僕はバレエのど素人です。その僕が、技の解説をするのは、大変烏滸がましく、恐縮なのですが、まったく知らない方に説明しないわけにもいきませんので、簡単にご説明しましょう。
グラン・フェッテ・アン・トゥールナンというのは、片足を軸にした回転技のことで、フェッテ、というのが鞭打つという意味があるらしく、鞭のようにフリーレッグを、ピシッピシッと横に振り上げる独特の旋回をします。
回転技は他にもあるのですが、このグラン・フェッテが、とくに有名なのは、劇の最高潮で演じられることと、その回転のユニークさにあります。とにかく派手で、華があり、誰が見ても難しい技であると、すぐに分かります。
またバレエの代名詞、白鳥の湖やドン・キホーテといった人気の高い演目で、演じられることもグラン・フェッテをより有名にしているのでしょう。が、もちろんそれはバレエ好きの人のみであって、一般的にはあまり知られていないのが現状と言っていいでしょう。
白鳥の湖は悪魔の娘(黒鳥)、ドン・キホーテは村の娘・キトリ、が、この技をやります。クライマックスです。
このグラン・フェッテを見るのが一番の楽しみで、劇場に行かれる方もおられるのではないかと僕は思います。
因みにグラン・フェッテ・アン・トゥールナンの32回転が見れるのは、先に書いた白鳥の湖とドン・キホーテと海賊くらいです。他にもあるのでしょうが、僕はよく知りません。なんせど素人ですから。
劇場で観たことは一度もありません。ユーチューブのみです。
それで、グラン・フェッテの名手を2名選ぼうとするのですから、いよいよもって厚かましいことですが、ど素人ですから、どんなことを書いてもまったく影響力はありません。気楽なものです。
それにしてもユーチューブは、とても素敵なサイトです。
たくさんのバレエの動画が無料で観れます。グラン・フェッテ・アン・トゥールナンの動画も多いです。そして、そのほとんどが、世界的に有名な一流バレニーナによって行われています。
したがって皆さん大変お上手で、失敗した動画は一つもありません。しかし、すごく惹き込まれる演技と、いまいち惹き込まれない演技がありました。その差は何だったのか? ここで、それを僕なりに考察してみたいと思います。
バレエはスポーツではありませんが、スポーツ的要素を含んでいます。であれば、スポーツを見て感動するのは何かを考えればいいのです。もちろん贔屓の選手あるいはチームが逆転して勝ったから感動したというのもあるでしょうが、ここでは単純に選手の動きにおいてのみです。
動きで僕が感動を覚えるのは、まずスピードです。どんな競技でも、のろのろやってスカッとすることはありません。平均以上のスピードがあってこそ、爽快感が出せるのです。
グラン・フェッテ・アン・トゥールナンは、最高難度の技であることを、バレエ通なら、みんな知っています。ですから、失敗せずに32回回り切っただけでも大したことで、拍手が起こります。
ではグラン・フェッテにおける失敗とは何か──を書いてみましょう。
明らかな失敗は、やはりバランスを崩してフリーレッグを床に着けることでしょう。まあ転倒というのが最悪な事態ですが、跳躍ではないので、転倒する方が難しいと言えましょう。そのようなレベルのバレニーナが、主役をさせてもらえることはないです。
グラン・フェッテは、回転数に決まりがあるのかどうか知りませんが、どれも32回転という長丁場です。
中盤を過ぎたあたりで軸がぶれ、あっちこっち移動することが多いようです。しかし、さすがに一流のバレニーナは、たとえ体が後ろ向きになったとしても修正します。体幹がすごいですから。
バランスを崩すのは、たいてい回転をシングルからダブルあるいはトリプルに変化させた時で、ならば、シングルで最後までやればそつなくできたわけです。しかし、僕はむしろ危険を冒して高難度に挑戦したことを評価します。
かりに足を床に着けても、またすぐに回転を始めれば問題はありません、僕的には。ご愛敬です。しかし、危険を察して、途中から違う技に移行するのはいただけません。
何とかターンで、舞台をぐるっと回ったりすることです。観客は32回転を観に来ているわけですから、それをせずに違う技でごまかすのは、プロとしてはいかがなものでしょうか。一流のバレニーナでも、このグラン・フェッテを苦手にしている方は、けっこうおられるようです。
できる人にさせるべきです。
グラン・フェッテで一番大事なのは、何度でも言いますがスピードです。もちろん正確さも大事ですが、シングルでのろのろ回られても見ていて面白くありません。やっと終わったか、といった感じではダメなのです。まあそれでもよろよろ移動せずに一カ所で回り終えたら、それなりに評価はできます。安定感も大事ですから。
要するにスピードと正確さが超一流と単なる一流の差だと僕は思います。
バレエは優雅さが一番ですが、このグラン・フェッテに関しては迫力が大事です。とくに黒鳥の32回転は、凄みが必要です。
ということで、遅くなりましたが、バレエのど素人の僕が、ユーチューブを観て、その中から選んだグラン・フェッテ・アン・トゥールナンの名手2名を発表したいと思います。
1 ニーナ・アナニアシヴィリ
彼女はジョージア出身。 アメリカのジョージア州ではありません。昔グルジアと言っていた国です。彼女はロシアのボリショイ・バレエ団で活躍しました。
彼女のグラン・フェッテはすごい迫力があります。体格も理想的ですが、その回転のスピードと正確さは目を見張ります。彼女は途中、腕や回転数を変化させてもビクともしません。これが超一流の技であると痛感いたしました。
2 ジリアン・マーフィー
彼女はアメリカのサウスカロライナ州出身で、アメリカン・バレエ・シアターで活躍しました。けっこう身長があるように見えるのですが、体幹がすごいのか重さを感じさせません。重厚感はありますが。
彼女のグラン・フェッテもスピードがあり正確です。黒鳥の衣装で32回転を演じている姿に、圧倒されそうな凄みを感じました。
以上が、僕がユーチューブで観たグラン・フェッテの最高の使い手2名です。もちろんこの他にも上手な演技者はたくさんいます。ナタリア・オシポワなども素晴らしい回転をしていました。
番外編
日本の大矢夏奈が、驚くようなグラン・フェッテを魅せてくれました。これはユーチューブではなかったかもしれませんが、あるサイトでその演技を観て僕はたまげたものです。ダブル以上の回転を何度もいれて、まったく軸がぶれないのです。おそらく十センチも移動していなかったでしょう。これほど正確なグラン・フェッテを僕は他に知りません。世界トップクラスです。将来が、大変期待できるバレニーナです。
ということで、今回はこの辺で失礼いたします。